主催:目黒区教育委員会 主管:目黒ユネスコ協会
2016年3月26日(土)14:00~16:00 場所:青少年プラザ 参加29名
講師:相良 憲昭 NPO法人目黒ユネスコ協会 会長
相良会長による「ユネスコ:世界平和の回復のために」とは、いったいどんな切り口になるのか。興味津々な講座が始まった。
まず、日本がユネスコに加盟することになったいきさつが興味深い。昭和20年連合軍に占領され昭和27年に主権回復したが、ユネスコへの加盟が認められたのは、その1年前だった。一方、昭和22年には世界初のユネスコ民間団体であるユネスコ協会が仙台において設立され、その後、各地に相次いでユネスコ協会が誕生した。その中には我々の目黒ユネスコ協会も含まれていた。
ユネスコ活動に携わるわれわれは、過去60年以上にわたって、ユネスコ憲章前文の「人の心の中に平和のとりでを築かなければならない・・・」と謳ってきたが、今、いささかの無力感を覚えざるを得ない。戦争がなぜ起きるかについて、ユネスコ憲章はその前文第3節で、「相互の文化や風習を知らないことによって、人々の間に不信や疑惑が生じ、その不信や疑惑による不一致が戦争へとつながった」とある。すなわち、自らの文化は他者の文化に優っているという優越感こそが、戦争や武力紛争の根本原因だというのである。ところで、文化とは何だろう。B.タイラーという19世紀中葉の英国の人類学者は、
「文化とは、知識、信仰、芸術、道徳、法律、風習、その他獲得された能力・習慣である」といっている。世界最古の文化の定義である。言語学者の金田一春彦氏は「人には個性がある。社会にも個性がある。社会の個性を文化という」ときわめて秀逸な定義を行っている。人の個性に優劣がないように、文化にも優劣の関係は本来存在しない。それにもかかわらず、人は己の文化を他者のそれと比較しようとしてきた。これこそがユネスコ憲章がいう戦争の原因なのである。文化(特に言語、宗教)は社会集団の構成員にとって、アイデンティティの源である。他者はそれを犯すことはできない。
日本社会は幸いにしてきわめて高い文化的同質性を享受してきた。生活・風習、言語、宗教、教育等々の同質性が高いために、日本社会は安定を維持してきたのである。
講演の後の質疑応答では、かつてのユーゴスラビア内戦や湾岸戦争、また今もシリア内戦などで多くの悲劇が生まれているが、ユネスコはどう向き合うべきか、さらに「ISや北朝鮮の動向は」といった多くの疑問が提出された。講演後のアンケートでは「相良先生を囲んでのやりとりが充実していた。是非続きが聞きたい」などの感想が寄せられた。
研修委員長 山本 一雄
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