世界遺産検定マイスター 世界遺産アカデミー認定講師
目黒ユネスコ協会会員 雲野 右子 (うんの ゆうこ)
2013年オバマ大統領が、ゴレ島を訪れ『Door of no return』(二度と戻れない断絶の扉)の前に佇む姿が世界に配信された。黒人奴隷が船へと向かう最後の扉から 海の彼方を見つめるアフリカ系米国人大統領の姿は、言葉以上に発信力を持つ光景であった。
1978年、初めて登録された世界遺産は12件。そのひとつが、奴隷貿易の拠点となったゴレ島だ。西アフリカ、サハラ砂漠西南端に位置するセネガル共和国、首都ダカールは、自動車レース・パリダカの終着点として知られる。その沖合3kmにあるゴレ島で、1815年に奴隷制度が廃止されるまで三角貿易が行われていた。ヨーロッパ諸国はアフリカに武器(銃により奴隷が集められた)や綿製品を売り、アフリカから奴隷を買う。その奴隷をアメリカ大陸に売ることでヨーロッパ諸国は砂糖やコーヒー綿花を入手した。蓄積された利益は、一部、産業革命の資本となったとも伝えられ、今の我々の暮らす社会形成へとつながっている。 数千万ともいわれる人々が商品として送り出された島。今も残る一時収容施設では2.6m四方の空間に20人が詰め込まれ、出航後も劣悪な船倉で2割の尊い命が失われたという。人権問題は現代にも連綿と続いている。
『ゴレ島』を始め、人種隔離政策に関係する南アフリカの『ロベン島』、『アウシュヴィッツ・ビルケナウーナチス・ドイツの強制絶滅収容所』、『広島平和記念碑(原爆ドーム)』などの世界遺産は負の遺産と呼ばれる。人類が起こした過ちを記憶にとどめ教訓とするための遺産である。
世界遺産の真の姿に触れるには、背景を知り、歴史を知り、その地にいた人々の営みに心を寄せ、見えないつながりを俯瞰すること、地理的、時間的側面をこえ複眼的に捉えることが重要である。学びにより扉は次々と開かれていく。自分とは関係ないと思っていたことでさえ、ぐっと身近に迫ってくる。異文化理解への一助になるのではないだろうか。
※写真:セネガル共和国大使館提供
※NPO法人世界遺産アカデミーの検定は、4級からマイスター試験まであり、成績優秀者には文部科学大臣賞が授与される文科省後援事業である。試験を受けずともテキストを眺めるだけで『世界の多様さ』を感じることができる。
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